断熱

1日で終わる屋根断熱になるまで〜工務店様と3回改良を重ねた「ラクティーMp」開発記

1日で終わる屋根断熱になるまで 工務店様と3回改良を重ねた「ラクティーMp」開発記

「上棟したあとで、室内側から屋根の断熱を足せる製品が欲しい」
ラクティーMpの開発は、東北の工務店様から届いたこのひと言から始まりました。
最初につくった断熱ボードは、現場では思うように使えませんでした。そこで工務店様の現場で3回のモニター施工を行い、そのたびに意見をいただいて改良を行いました。1回目は1㎡あたり16.9分かかっていた施工が、3回目には約104㎡の屋根全体で1日に。この記事では、その経緯をご紹介します。

 この記事の要点

課題

屋根の断熱材が263mm必要

北海道などの寒冷地で、屋根が断熱等級5の基準を満たすのに必要な厚さ(一般的な断熱材の場合)。厚いほど軒先が分厚くなり、上棟日の雨仕舞も遅れやすい。施工を担う大工は、20年で半分以下に

取り組み

3回の現場改良

室内側から母屋(もや)の間にはめ込む付加断熱ボードを、工務店様の現場で3回試して改良

結果

約104㎡を1日で施工

留め方の変更と改良を重ね、1㎡あたりの施工時間は16.9分から6.3分に。3回目は約104㎡の屋根を1日で施工

01. 断熱等級6が標準に。寒冷地では屋根の断熱材が20cmを超える

■ 2027年度から、GX ZEHは断熱等級6以上が条件に

国は遅くとも2030年までに、新築住宅の省エネ基準を断熱等級5(ZEH水準)へ引き上げる方針です。さらに2027年度からは、国の新しい「GX ZEH」の条件が断熱等級6以上になります。国の補助事業「みらいエコ住宅2026事業」でも、補助額が最も大きい「GX志向型住宅」は断熱等級6以上が条件です。
等級5は最低限の基準になり、等級6以上を求められる場面が増えていきます。

■ 1〜2地域の屋根は、等級5でも断熱材263mm

北海道など寒さの厳しい「1〜2地域」で屋根の誘導基準(等級5)を満たすには、一般的な断熱材で263mmの厚さが必要です。等級6・7を目指すなら、さらに厚くなります。

1〜2地域の屋根で誘導基準を満たすのに必要な断熱材の厚さ。充填断熱263mm、外張断熱240mm、ラクティーシルバー75mmとラクティーMp60mmの組み合わせは135mm

1〜2地域(北海道など)で屋根の誘導基準を満たすのに必要な断熱材の厚さ。充填・外張は一般的な断熱材(熱伝導率0.038W/(m・K))の場合。ラクティーシルバー75mm+ラクティーMp60mmの熱抵抗値は7.0㎡・K/W(基準6.9㎡・K/W)

屋根の外側で断熱材を厚くすると、軒先(のきさき:屋根の端が外壁より外に出ている部分)も分厚くなり、家の見た目が変わってしまいます。垂木を2段に組む方法では、上棟日に野地板まで張りきれず、雨仕舞(雨が入らないようにすること)が遅れることもあります。

屋根の外側で断熱する場合(2重垂木)の断面図。断熱材の厚みの分だけ屋根と軒先が厚くなる

屋根の外側で断熱する場合(2重垂木)。断熱材の厚みの分だけ、屋根と軒先が厚くなる

02. 一方で、大工の数は20年で半分以下に

大工の数は、2000年の約64.7万人から2020年には約29.8万人と、20年で半分以下になりました。2020年の大工のうち、60歳以上が約4割を占めます。

大工の就業者数の推移。1990年73.4万人、2000年64.7万人、2010年40.2万人、2020年29.8万人、2050年推計約9.4〜10.2万人

大工の就業者数の推移。2020年の大工のうち、60歳以上は約4割。出典:国勢調査(総務省)、国土交通省「住宅分野における建設技能者等の確保に向けて(現状分析等)」

断熱材を厚くするほど、現場の手間は増えます。その手間を担う大工は、これからも減っていく見込みです。断熱性能を上げながら、現場の負担は増やさない。これからの屋根断熱には、その両方が求められています。

03. 工務店様の声「上棟後に、室内側から断熱を足したい」

こうした状況の中で、東北の工務店様から届いたのが次の声です。

東北の工務店様の声

「上棟のあとで、室内側から付加断熱ができる製品が欲しい」
「気密処理も室内側から行いたい」

屋根の外側には手を加えず、上棟日に屋根を仕上げて雨を防ぐ。断熱は上棟後に、室内側から足す。これがラクティーMpの出発点です。

04. 最初の断熱ボードは、現場で思うように使えなかった

当社はまず、既存の屋根断熱製品「HIPルーフ」「ラクティーシルバー」と組み合わせる前提で、厚さ60mmと80mmの2種類を考えました。施工の枚数を減らすため、長さ2,730mmの長い断熱ボードも用意しました。
断熱ボードを入れるのは、垂木の下で屋根を支える母屋と母屋の間です。垂木の間に断熱材を入れたあと、母屋と母屋の間に断熱ボードを室内側からはめ込んで、もう1層を重ねます。

室内から見上げた図。母屋と母屋の間に断熱ボードを並べてはめ込む(最初の仕様)

室内から見上げたところ(最初の仕様)。母屋と母屋の間に断熱ボードを並べてはめ込む

横から見た断面図。垂木の間の断熱材に加え、母屋と母屋の間に断熱ボードを室内側からはめ込む(最初の仕様)

計算上は、これで現場の負担は軽くなるはずでした。しかし実際に施工してみると、図面だけでは分からなかった課題がいくつも見つかりました。そこで、岩手県と福島県の工務店様の現場で、3回のモニター施工を行いました。

05. 1回目:留め方を変えて、1㎡あたり16.9分→9.7分に

1回目は、岩手県の工務店様の現場です。勾配の違う2つの屋根面で、留め方を変えて比べました。
まず分かったのは、長い断熱ボードが小屋裏(屋根と天井の間の空間)では思うように動かせないことです。下からの作業になるため梁が邪魔になり、断熱ボードを斜めに差し込むのも一苦労でした。

1回目のモニター施工。断熱ボードを釘で仮止めする様子

1回目のモニター施工。断熱ボードを木材で固定した様子

1回目のモニター施工。断熱ボードを固定座金で固定した様子

上から「釘で仮止め」「木材で固定」「固定座金で固定」

留め方については、職人さんから「固定座金(断熱ボードを押さえる丸い金具)で真ん中を留めてから、四隅を留める方が早い」という意見がありました。1㎡あたりの施工時間は、木材で固定する方法が16.9分、固定座金で留める方法が9.7分です。
一方で、断熱ボードと母屋のすき間を一液ウレタン(すき間を埋める発泡材)で埋める作業は「かなり大変」という声がありました。妻壁(三角形になった建物の側面の壁)まわりの、壁の断熱材とのすき間がある部分には、あらかじめ加工した断熱材が欲しいという要望もいただきました。

母屋と断熱ボードのすき間を一液ウレタンで埋める作業中の様子

母屋と断熱ボードのすき間を一液ウレタンで埋めた後の様子

1回目:母屋と断熱ボードのすき間を、一液ウレタンで埋める作業(上:作業中/下:埋めた後)

1回目の結果をもとに、次の改良を行いました。
・断熱ボードの長さを1,819mm以下にして、小屋裏でも扱いやすく
・梁の上には専用の断熱ボードを用意し、真下から持ち上げて固定できるように
・妻壁まわりに使う断熱材を新たに用意
・断熱ボード同士のすき間を0mmから1mmに変更

06. 2回目:8.1分/㎡まで短縮。残った「約1時間」

2回目は、福島県の工務店様の現場です。留め方は固定座金に統一しました。
梁の上の断熱ボードを分けたことで、小屋裏で断熱ボードを動かしにくい問題はなくなりました。すき間を1mm設けたことで、現場での長さの調整も楽になっています。1㎡あたりの施工時間は8.1分まで縮まりました。
それでも、妻壁まわりの断熱材を屋根の傾きに合わせて斜めにカットする作業に、合計で1時間ほどかかっていました。
母屋との取り合い(部材と部材がぶつかる部分)を一液ウレタンで埋める作業にも、まだ手間がかかります。
工務店様からは「母屋の上のすき間に入れる三角形の部材が欲しい」という声もいただきました。

2回目のモニター施工。梁の上の断熱ボードを真下から持ち上げて固定する様子

妻壁まわりで、壁の断熱材とのすき間を断熱材で埋めた様子

2回目:梁の上は断熱ボードを分けて、真下から持ち上げて固定(上)。
妻壁まわりは、壁の断熱材とのすき間を断熱材で埋める(下)

そこで、断熱ボードの母屋に接する面を、屋根の傾きに合わせて工場で斜めに加工することにしました。
斜めにカットする機械は九州で製作し、東北工場へ運んで設置。
工場で調整をくり返し、斜めに加工した断熱ボードを出荷できるようになりました。妻壁まわりの断熱材も、同じように斜めに加工します。

東北工場で、屋根の傾きに合わせて斜めに加工した断熱ボード

工場で斜めに加工した断熱ボードの断面

屋根の傾きに合わせて、工場で斜めに加工した断熱ボード

07. 3回目:約104㎡の屋根を、1日で施工

3回目も福島県の工務店様の現場で、約104㎡の屋根に施工しました。2回目までの改良をすべて反映した仕様での確認です。
斜めに加工した断熱ボードは、はめ込むだけで落ちてこないため、固定が楽になりました。一液ウレタンを使うのも垂木と母屋の間だけになり、施工は1日で完了しました。作業時間は2人で約5.5時間(休憩を除く)、1㎡あたりに直すと約6.3分です。

  1. 1妻壁まわりを先に固定する
  2. 2母屋に一液ウレタンを吹く
  3. 3断熱ボードを下から押し込むポイント:手を放しても、摩擦で落ちてこない
  4. 4固定座金とビスで垂木に留める
  5. 5つなぎ目と四方を気密処理する

3回目のモニター施工(2026年9月)の手順。母屋に接する面は工場で斜めに加工済み

3回目のモニター施工。母屋と母屋の間に斜めに加工した断熱ボードをはめ込む様子

現場の棟梁からは「断熱ボード同士のすき間(1mm)は今のままで良い」「60mmなら小さい丸ノコでもカットできる」という声をいただきました。
一方で、屋根の傾きがゆるいと、正方形に近い断熱ボードはどの向きに斜め加工されているのか、見ただけでは分かりにくいことも分かりました。そこで、断熱ボードの室内側に向きを表示するようにしました。

■ 3回のモニター施工の結果

1㎡あたりの施工時間の比較。1回目(木材で固定)16.9分、1回目(固定座金)9.7分、2回目(固定座金)8.1分、3回目(斜め加工)6.3分

1㎡あたりの施工時間の比較。回ごとに屋根の形や断熱ボードの厚さ(80mm/60mm)が異なる。3回目は2人で約5.5時間(休憩を除く)、約104㎡を施工

1回目 2回目 3回目
時期 2025年4月 2025年8月 2026年9月
場所 岩手県 福島県 福島県
屋根 切妻(4寸・7.85寸勾配) 切妻(3寸勾配) 片流れ(1.5寸勾配)
断熱ボード
の厚さ
80mm 60mm 60mm
施工面積 約197㎡ 約102㎡ 約104㎡
施工時間 16.9分/㎡(木材で固定)
9.7分/㎡(固定座金)
8.1分/㎡ 1日で完了
6.3分/㎡(2人・約5.5時間)

■ 完成したラクティーMp

ラクティーMpの製品写真

完成したラクティーMpの断面図。母屋に接する面を屋根の傾きに合わせて斜めにカットし、すき間なく納める

横から見たところ(断面・完成したラクティーMp)。母屋に接する面を屋根の傾きに合わせて工場で斜めにカットし、すき間なく納める。母屋・垂木のすき間は、一液ウレタンを吹いて埋める

断熱材 硬質ウレタンフォーム(熱伝導率0.019W/(m・K))
厚さ 60mm(熱抵抗値3.1㎡・K/W)
80mm(熱抵抗値4.2㎡・K/W)
寸法 幅400〜910mm×長さ100〜1,819mm(フルオーダー)
加工 母屋に接する面を、屋根勾配に合わせて斜めカット
組み合わせ ラクティーシルバー75mm+ラクティーMp60mmで7.0㎡・K/W(1〜2地域の屋根の誘導基準6.9㎡・K/Wを上回る)
対応エリア 東北工場エリア限定

 工務店様にとっての、3つの大きな違い

01

外観は
変わらない

屋根の外側には手を加えないため、軒先の厚みと見た目はそのまま

02

上棟日に
雨仕舞

上棟日に屋根を仕上げ、断熱は上棟後に室内側から施工できる

03

はめ込む
だけ

母屋に接する面は工場で斜めに加工済み。はめ込むだけで落ちてこない

おわりに

ラクティーMpは、図面の上だけでは完成しませんでした。3回のモニター施工で工務店様に使っていただき、そのたびにいただいた意見をもとに改良を重ねたことで、1日で終わる屋根断熱になりました。
こうした作り方は、ラクティーMpに限ったものではありません。当社の製品開発は、いつも現場の困りごとから始まります。「できない」ではなく「どうすればできるか」を、営業・開発・工場が一緒に考えます。仕様変更の申請はこれまでに600件を超え、その中から正式な製品になったものもあります。床用の断熱ボード「ラクティー」も、2011年の発売後、はめ込みやすさのために突起の形や素材を見直してきました。
「既製品では納まらない」「この部分に使える断熱材が欲しい」。そんな困りごとがあれば、ぜひお聞かせください。

製品開発について

現場の困りごとが、
開発の出発点。

仕様変更の申請は600件超。
サイズ・厚みの調整から複合品まで、
「どうすればできるか」を一緒に考えます。

製品開発について詳しく見る ›

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よくある質問

Q. 屋根の付加断熱は、室内側からできますか?

A. できます。ラクティーMpは、母屋と母屋の間に室内側からはめ込む付加断熱ボードです。屋根の外側に手を加えないため、軒先の厚みや外観は変わりません。上棟日に屋根を仕上げて雨仕舞を済ませ、断熱は上棟後に施工できます。

Q. 施工にはどれくらい時間がかかりますか?

A. 3回目のモニター施工では、約104㎡の屋根を2人・1日(作業時間 約5.5時間)で施工しました。1㎡あたりの施工時間は、1回目に木材で固定した場合の16.9分から、固定座金に変えて9.7分、2回目は8.1分、3回目は6.3分まで短くなっています。

Q. 既製品では納まらない場合も、相談できますか?

A. ご相談ください。当社ではサイズや厚さの変更などの仕様変更に対応しており、これまでの申請は600件を超えます。